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◆談論風発 : 山陰両県予算の課題 やる気おこさす将来像を 2009-04-22 

※この文章は、当財団所長理事の北川泉が山陰中央新報に寄稿したものを、山陰中央新報社の了解を得た上で転載したものです。

島根大学名誉教授 北川泉


 本紙政治経済面(二月二十一日付)を読んで、久しぶりに山陰両県の課題に、的を射た視点・論点を見た思いがする。紙上、「ぼやける財政軸」とあるのは、むしろ「ぼやける政策軸」としたいところである。

 なぜなら、両県の目指す方向・将来像が見えないまま、急場の財政積み増しをするというだけでは、相も変わらない国の政策をそのまま下ろして、懸命さを演じているとしか見えないからである。現下の山陰両県の社会経済の実態をどうとらえ、どのように分析し、どの方向に向かって進むべきか、さっぱり見えないのである。

 もちろん、当面の危機を乗り越えるための急場の対策は、あらゆる手だてを使ってもしのがなければならない。だが、その先が見えないようでは、将来の希望がなく、危機をしのぐ力がわいてこないのも事実であろう。

 今こそ、山陰両県の特色・強みを生かす方向を指し示しながら、そのプロセスの中で、急場の危機をしのぐエネルギーを醸し出すべきであろう。

 その方向とは、このたびの世界的経済金融危機が如実に示したように、空虚なバブル経済ではない庶民の生活実態に基づいた、真の豊かさを目指すものでなくてはならないのである。それは、両県の特色である農林漁業を中心とした地場産業に照準を合わせ、一次、二次、三次産業の融合による、複合コンプレックスの地域産業を多様に発展させることである。

 観光産業も、こうした産業の集大成としてこそ魅力を発揮するのであって、宣伝や集客数などにこだわることは、手段であって目的ではないはずだ。トータル産業としての観光のあり方も、そこから見えてくるのではないか。

 このことは、小さな産業の集積を意味するものであって、ひいては農山漁村の先端集落をも生き返らせ、高齢者、そして若者の働き場をつくり、やる気を起こさせることにつながるのである。とりわけ高齢者の多い山陰両県にとって、元気な高齢者を増やし、長年培ってきた知恵と経験を生かすことは、医療費の軽減、社会の安全・安心にもつながる基軸となり得るだろう。

 もちろん、世界に羽ばたく先端産業や誘致企業の立地は大いに進めるべきだ。だが、何を主軸として多くの地域住民が納得し、未来に希望を見いだして、今を生きることができるかを、県政のかじ取り役は共働して示すべきなのである。いうならば、地域振興、村おこし、町おこしは、そこに住む住民、つまり県民のやる気おこしなのである。政策遂行者は、その方向、対策を熱っぽく語ることなのである。

 ことしになって、各地で開かれている「農林漁業を仕事としたいと考える人」のための就農相談には、過去に例を見ない関心の高まりが全国各地から報告されている。こうした動きに即応して、どんな現場対応が可能か、受け皿づくりに各機関・組織が協力して、短期・長期の受け入れ態勢をつくるべきであろう。

 「農本主義」ではないが、山あり、川あり、海あり、未利用耕地ありの山陰地域にとって、その活用による安心して暮らせる「働く場」づくりは可能なはずである。本来、農の発展は工・商の発展であり、支え合う「業」が産業なのである。

 この件について、両県の担当部局の考えを、紙上を通じてぜひ聞いてみたいものだ。

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 きたがわ・いずみ 高知県出身。京都大学大学院修了。島根大学教授、同農学部長を経て、島根大学学長。退官後、島根総合研究所長として農業、中山間地、街づくり、高齢者問題などに提言を続けている。松江市在住。七十七歳。

('09/04/22 無断転載禁止)


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