一般財団法人島根総合研究所 souken.or.jp

財団案内事業一覧事業実績お問合せRSS2.0Nucleus CMS

◆談論風発 : 小泉改革は地方をどう変えたか 山陰独自の「三位一体」を 2008-10-20 

※この文章は、当財団所長理事の北川泉が山陰中央新報に寄稿したものを、山陰中央新報社の了解を得た上で転載したものです。

島根大学名誉教授 北川泉


 ここ五-六年の間に、地方を襲った大きな変革の嵐は、三位一体の改革であり、競争を至上とする市場原理主義であり、そして、市町村合併であった。

 この間、地方は一様に財政難に襲われ、最近、どうも地域の影が薄くなったという声をよく耳にする。町村合併によって、多くの町村が新しい名称に統一されて、昔の村や集落の名前がマスコミ等にも出なくなったこともあるだろう。

 しかし、そのせいばかりではない。地域によって一様ではないが、合併前の旧町村の個性やアイデンティティーが薄くなり、元気な地域の姿が見えてこなくなったことが大きく影響しているものと思われる。

 いま、まさに中山間地域や農・漁村集落、そして地方都市のど真ん中、中心市街地さえも、元気がなくなってきているのではないか。

 その主な原因はどこにあるのだろうか。もちろん、これら三つの改革にすべての原因を求めようというわけではないが、なかでも、三位一体の改革が大きく影を落としていることは否めないのではないか。

 この改革は、周知のように、(1)国から地方への税源の移譲(2)国庫補助金の削減(3)地方交付税の改革の三つを一体的に改革しようとするものであった。

 そして、この改革の行方には、地方分権の受け皿としての道州制の導入が予定されていたことは周知のことであるが、もともと税源の少ない地方へ権限を移譲されても、メリットもない上に、補助金、交付金を減らされるようでは、死活問題だという声は強かった。

 案の定、このほど九月末に、全国町村会は今後の道州制の導入に反対する声明を出したのである。その理由として、町村合併の目的だったはずの「地方分権は一向に進んでいない」上に、合併の成果よりも「行政と住民の距離が遠くなった」というものであった。

 まさに、地方の影の薄さ、活力の低下は、この行政と住民との距離の隔りにあったというべきであろう。

 その上に、「競争こそ国を豊かにする」という二百年以上前のアダム・スミスの理論(「国富論」)を持ち出して「競争と効率」を政策の主軸に置いたのである。

 こうした市場原理に基づく効率性の追求は、どういう社会・経済風潮を生んでいったか。この考えを最も象徴的に示したのは、あの堀江モン、村上ファンドの株の売買による巨額の富を得た時の発言、「お金をもうけてどこが悪いですか」と開き直る人物をもてはやした時の政府要人たち。

 「法に触れなければ何をしてもよい」と思えるようなコンプライアンスのはき違えた考えの蔓延(まんえん)。地域に生きて、額に汗して働き、自らの良心に照らして嘘(うそ)の言えない実直でまじめな庶民は、ひっそりと影が薄く、行き場を失う社会を生んだのではないか。

 果たせるかな、アメリカ発の金融危機は、世界の金融界だけでなく、実体経済にも大きな影を落としはじめている。

 いまこそ、あらためて、架空のマネーゲームに走るのではなく、山陰地域の強みを生かした食糧自給、環境、地域エネルギーのありようを三位一体改革として自ら模索し、農林漁業と地場産業に軸足を置いた、真に豊かな社会の構築をめざす時であろう。

……………………………………………………………………………………………………………………………………………

 きたがわ・いずみ 高知県出身。京都大学大学院修了。島根大学教授、同農学部長を経て、島根大学学長。退官後、島根総合研究所長として農業、中山間地、街づくり、高齢者問題などに提言を続けている。松江市在住。七十六歳。

08/10/20



一般財団法人島根総合研究所 〒690-0842 島根県松江市東本町5-16-9 電話(0852)25-5784
Copyright (C) Shimane General Laboratory Foundation. All rights reserved.
*島根県における経済、社会、文化の各分野にわたる諸問題に関する相談窓口を開設中