一般財団法人島根総合研究所 souken.or.jp

財団案内事業一覧事業実績お問合せRSS2.0Nucleus CMS

◆談論風発 : これでよいのか、松江のまちづくり 情報公開し論議の場を 2008-07-28 

※この文章は、当財団所長理事の北川泉が山陰中央新報に寄稿したものを、山陰中央新報社の了解を得た上で転載したものです。

島根大学名誉教授 北川泉


 先日、十年ぶりに中国から数人の研究者が松江にやって来た。島根大学との学術交流が主目的であったが、松江の古い街並みを見たいというので、はたと困った。

 ヘルン旧居と武家屋敷のある塩見縄手界隈(かいわい)は、すでに前回来日の際に見学ずみというわけだからである。

 結局、石橋町の千手院、森山醤油店辺りを案内することになったのだが、もう松江には旧(ふる)い佇(たたず)まいを残す商家や街並みは残っていないことにあらためて気付く。

 逆に、乱立するコンクリートむき出しの高層建築、城下まちの中心大手前道路の拡幅、殿町の家老屋敷跡から旧一畑デパート跡に立つと、どこの町へ来たのかとわが目を疑うばかり。しかも、カラー舗装のクネクネ道路に至っては、松江の風情になじまない色調の構造物が出現している。

 そしてまた、最近では、殿町の松江藩家老屋敷跡(旧日銀支店長宅跡)に、市が三十九億九千万円で建設を進めている「歴史資料館(仮称)」のため、すでに格子窓の趣のある建物は壊されている。このたび、発掘調査の最中に江戸時代中期ごろの貴重な地下遺構や資料が出てきたという。

 島根考古学会は、建設計画の見直しを求め、発掘調査の内容を早く公開し、市民や研究者に意見を求めるよう要望(七月一日)しているが、遺構をそのまま残すという要望は取り上げられていないようだ。

 さらに、以前には、松江の誇るべきガラス工芸を中心とした美術展示館「ティファニー美術館」も、あっという間に壊され、その顛末(てんまつ)の詳細についても市民には何も聞かされないままである。もったいない、せめて建物だけでも利用の仕方があったのではないか、と思われる。

 他方で、由緒ある建物や街並みを壊してまで、急いで歴史資料館を四十億円もの税金を使って、あの場所に建てる必要があるのだろうか。これらの点に関して、市当局および市議会からも納得のいく説明はない。情報開示に基づく、開かれた議論がさっぱりなされていないのだ。まさに、議会の存在感のなさに驚くばかりである。

 さらに、目下、城下まち松江のまちづくりにとって大きな問題が持ち上がっている。斐伊川の治水対策と大橋川改修工事をめぐる松江のまちづくりについての問題である。

 いまだに、新しい「河川法」(一九九七年改正)による「河川整備基本方針」に基づく具体的手法を盛り込んだ「河川整備計画」は示されておらず、従って、住民の意見を反映させるための正規の「意見反映の場」が設置されないまま、小出しにデータを出すために、かえって疑心暗鬼を生む結果となっている。

 もっとあらゆる情報を開示して、とことん議論をする場を設けるべきではないのか。住民を巻き込み一緒になって、あるべき姿を探求するための手だてを、行政も議会も共に提起することによって、財政難の中での地方分権の在り方をも示す良い機会ととらえるべきであろう。

 まちづくりの実践には、住民のやる気こそが第一であるが、知恵も勇気もまちを愛する心も必要であることはいうまでもない。もの静かな松江の住民が、少しずつ声を上げてきていることは、現実の生活と住むまちの誇りに問題が起きてから、その価値に目覚めたからなのであろう。

 全国のまちづくりも、ある日突然失われそうになって、その価値に目覚め、反対運動から始まった例が多い。松江大橋もそのきっかけになるのではないか。

('08/07/28 無断転載禁止)


一般財団法人島根総合研究所 〒690-0842 島根県松江市東本町5-16-9 電話(0852)25-5784
Copyright (C) Shimane General Laboratory Foundation. All rights reserved.
*島根県における経済、社会、文化の各分野にわたる諸問題に関する相談窓口を開設中