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◆談論風発 : 人の顔の見えない地域政策 真の「協働」を模索すべき 2008-05-26 

※この文章は、当財団所長理事の北川泉が山陰中央新報に寄稿したものを、山陰中央新報社の了解を得た上で転載したものです。

島根大学名誉教授(財)島根総合研究所長 北川 泉


 地域は、生産・生活・交流・教育・歴史、そして文化、すべての分野にわたる、るつぼである。

 最近の地域計画、あるいは国、県、市町村の発展・振興計画をみても、それぞれの分野の分析に基づく数字の上の構想が示されてはいる。そして、当然ながら、その構想に基づく実施計画も示されている。

 ところが、モノ、情報、人口についてはある程度の数値に基づく施策が示されてはいるものの、その施策を具体的・主体的に担う人間の顔がさっぱり見えてこない。だから、数や形だけが踊っていても、具体的イメージや感動が伝わってこないのだ。

 地域おこしはそこに住み、生活する人々がいかにやる気を起こすかにかかっている。これまでの行政による未来像はむしろやる気を失わせる場面の方が多かったのではないか。

 例えば、島根には自然や豊かな食べもの、古き良き文化がある。その強みを生かすことこそ、島根の輝かしい未来がある、という。

 だが、現実の施策としては、その豊かな自然や、食文化、伝統の生活文化は、一つ一つ壊されて、強みを生かすどころか逆に弱みを意識させられる対策が次々ととられているようにみえる。

 これでは地域住民は、強みを生かすといっても、言葉だけにすぎず、誰も本気にしないのは当たり前といわざるを得ない。

 つまり、地域政策の課題として、美しい未来への目標は書かれてはいるものの、具体的施策との間の肉ばなれ、もっというならば美辞麗句の枕ことばになっている。さらに、各分野別の計画は分析に基づく計画という形をとってはいるものの、各分野ごとの関連や相乗・相殺効果は明確でないし、優先順位も明らかでない。その基本は、縦割り行政の弊害にあることは、これまでも多くの識者により指摘されてきている通りである。

 西欧の近代科学は、分析科学だといってよいとするならば、漢方医学のように、根本問題に配慮しながら人体を総合的に治療する方策が、地域政策にもとられる必要があるのではないか。

 現代資本主義社会は、市場原理に基づく、競争と効率主義が導きの糸になっている。しかも、生産活動の中で、人間労働はその生産の要素の一つであって、目的ではない。本来、人間が幸福に暮らす豊かさこそあらゆる活動の目標であるべきものが、市場原理・競争・効率を追求するための手段になりさがっているのではないか。

 そうした状況の中で、地域問題を見直してみると、最近では、地域計画の手法として「住民参画」や「協働」の必要性がうたわれるようになってきている。しかし、これも具体性に乏しく、言葉だけが先行し、担い手の顔は見えず、せいぜい企業やNPOの取り組みが示されているにすぎない。

 地域活性化の基本は、地域住民の潜在力、やる気を引き出すことにあるのだ。企画・立案の段階から住民・関係者を実質的に参画させ、自らの地域づくりとして「協働」していくことにある。

 その意味で、各種審議会や委員会についても、行政の都合のよいイエスマンや形だけの代表をそろえて、民意形成の隠れみのにならないような、真の協働とは何かを模索することから始めるべきであろう。

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 きたがわ・いずみ 高知県出身。京都大学大学院修了。島根大学教授、同農学部長を経て、一九九五年から九九年まで島根大学学長。退官後、島根総合研究所長として農業、中山間地、街づくり、高齢者問題などに提言を続けている。松江市在住。七十六歳。


('08/05/26 無断転載禁止)


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